ピケティは、所得税、相続税、資本税をいずれも累進的に制度化することで、格差の是正に向けた制度作りができると考えました。
これについて、詳しく見ていきます。
所得税
所得税とは、お金を「稼いだ」時に払う税金です。
今も、所得税は、累進課税です。
お金をたくさん持ってる人がたくさん納めるという仕組みになっています。
しかし、ピケティは「累進率をもっと上げよう」と提案しています。
1億ドルを稼ぐような人に、例えば60%とか70%の税金を課したとしても、けっこう手元に残るはずなのです。
お金をたくさん稼いだ人にとって、税金をたくさん納めることは、あまり大変ではありません。
そのため、お金をたくさん稼いでいる人に、多めにお金を納めてもらうべきだとピケティは主張しました。
相続税
相続税とは、お金を「子どもに引き継ぐ」時に払う税金です。
例えば、親が亡くなってしまった時は、親の財産は、子どもに引き継がれます。
その時に納めるのが相続税です。
親が残した財産が多ければ多いほど、相続税もたくさん納めます。
それでも、ピケティは、相続税の累進率をもっと上げるべきだと主張しました。
なぜなら、お金持ちの子どもがお金持ちになる仕組みを止めたいからです。
今の社会では、お金持ちの子どもがお金持ちになり、貧乏な人の子どもが貧乏になっています。
このような状況を「世襲型資本主義」と言います。
「世襲」とは、「親から子へ受け継がれる」という意味です。
貧富の格差が、親から子へ受け継がれていることに、ピケティは怒っているのです。
お金持ちの子どもは、親から莫大な財産を相続します。
お金がたくさんあれば、不労所得で稼ぐこともできます。
その子どもは、働かないで、お金を稼ぎ続けるかもしれません。
不労所得とは、自分が働かなくても得られるお金のことです。
ピケティは、人生のスタート地点から豊かさが違うことは、良くないと考えました。
資本税
資本税とは、お金を「持ってる」時に払う税金です。
現在は、資本税というものは、存在はしていません。
しかし、貧富の差を改善するためには必要だと、ピケティは主張しています。
なぜなら、所得税だけだと、お金をたくさん稼いでる人は、税金を納めますが、親からお金をたくさん受け継いだ人は、税金を納めないからです。
また、相続税は人生に一回だけなので、それだけでは、貧富の差を改善するには不十分です。
そのため、資本税というものを新たに作ることで、貧富の差を改善することができると、ピケティは考えました。
人生の出発点からお金持ちの人に税金を納めさせるために、資本税をピケティは提案したのです。
資本税を増税すべき
ピケティは、資本税を増税すべきと考えています。
所得税の増税に比べれば、資本税の増税は、まだ痛みが少ないからです。
所得とは、「時間を売って」得るものです。
一方で、資本は、所得と比べれば、あまり時間を使わずに、得ています。
例えば、賃貸料をもらうために、集金などが必要ですが、その労働時間はあまり長くありません。
また、労働所得よりも資本所得のほうが増加率がはるかに大きいです。
そのため、資本税には、累進課税を課すべきであると、ピケティは、主張しました。
こうして、ピケティは、所得税、相続税、資本税をいずれも累進的に制度化することで、格差の是正に向けた制度作りができると考えました。
累進的に制度化とは?
ところで、累進的に制度化とは、どういう意味でしょうか?
これは、いきなりガッと変えるのではなくて、少しずつだんだんと変えていくということです。
いきなり変えてしまうと、お金持ちの人からの反感を買います。
社会は、少しずつ変わっていく方が良いのです。
そのため、ピケティは、「ゆっくり少しずつ社会を変えていこう」と主張しました。
最初は、1%の課税でも良いです。
少しずつ、資本税を始めていくべきだとピケティは考えました。
一部の国でやっても意味がない
また、ピケティは、一国でやっても意味がないと主張しています。
なぜなら、このような制度を一部の国で行っても、お金持ちが別の国に逃げるだけだからです。
ピケティが提案するのは、グローバルな資本課税です。
つまり、税金のシステムを、世界中で同時に作ろうということです。
現在では、税金の仕組みは各国がそれぞれ考えています。
例えば、シンガポールでは、「お金持ちの人に優しい」税金のシステムがあります。
そのためお金持ちの日本人は、シンガポールに移住することが多いです。
シンガポールのような「税金をあまり納めなくていい場所」のことを「タックス・ヘイブン(租税回避地)」と言います。
今、世界の膨大なお金がこのタックス・ヘイブン(租税回避地)に逃げています。
そのような「租税競争」を止めないと、本当にお金持ちの人から税を集める事ができません。
本当にお金持ちの人から税金を取るためには、世界中の政府が協力する必要があるのです。