現状
現在、アメリカでは、一部の富裕層に富が一点集中しています。
一方で、日本では、正規雇用と非正規雇用の間に給料の格差があります。
このような貧富の格差を是正するには、何が必要なのでしょうか。
賃金が上がると失業者が増える
「賃金が上がると失業者が増える」という考え方があります。
まずは、この理屈について紹介します。
企業は、労働者に賃金を与えています。
もし、ひとりひとりの賃金が安くていいなら、より多くの労働者に賃金を与えることができます。
一人分の取り分が少ないなら、多くの労働者が賃金をもらえるのです。
一方で、ひとりの賃金を高くしてしまうと、その分、賃金をもらえない人が出てきます。
一人分の取り分が大きくなれば、全員には与えられないのです。
これが、古典派の考え方です。
賃金をもらえない人のことを、失業者と言います。
これが、「賃金が上がると失業者が増える」という考え方の理屈です。
古典派では、失業者を減らすためには、仕事を分け合うべきだと考えられていました。
失業者がいるなら、その人を雇ってあげる代わりに、他の労働者の賃金を下げれば良いのです。
失業者を減らすためには、労働者の実質賃金が下がることは「しょうがないこと」として受け取られていたのです。
実質賃金について
賃金について話し合うときは、私たちは名目の賃金ではなく、実質の賃金に注目する必要があります。
実質賃金とは、なんでしょうか?
実質賃金は、もらった賃金で、「どれくらい買い物できるのか」に注目している数字です。
例え話をするので、想像してみてください。
時給が100万円なのに、パンの値段も100万円になった世界があるとします。
これは、嬉しい状況ですか?
これは、嬉しくない状況です。
お金が、たくさんあっても、パンの値段が高いなら、嬉しくないのです。
その理由は、実質的には、貧しいからです。
時給が100万円で、パンの値段も100万円の時、どれくらい買い物できるますか?
パン1個しか買えません。
物価が高いと、買い物できる量が減るのです。
基本的には、賃金が高くなると嬉しいです。
お金はたくさんある方がいいのです。
その理由は、買い物がたくさんできるからです。
しかし、賃金が高くても、物価も高いなら、買い物をたくさんすることができないのです。
以上が、実質賃金の説明です。
実質賃金の説明を、教科書の言葉で言い直すと、「実質賃金とは、もらった賃金から、物価の影響を差し引いた数字」です。
今の日本
日本では、2015年3月までの統計では、実質賃金は下がり続けています。
つまり、買い物できる量は減っているのです。
日本は、ずっと不況です。
この不況の原因は、マルクスに言わせるなら、「搾取しすぎ」です。
労働者の賃金を低くすると、不況になるのです。
今の日本は、労働者の実質賃金が下がっており、非正規雇用が増えています。
非正規雇用の人は、正規雇用の半分程度の賃金で働いています。
ピケティの意見
失業者を減らすために、賃金が下がることは、「しょうがないこと」なのでしょうか?
ピケティが注目したのは、労働分配率です。
労働分配率とは、会社で生み出した付加価値が、どれくらい労働者に分配されたかを示す数字です。
企業は、お金を儲けた後、その一部を労働者の賃金にして、残りを経営者の取り分にしています。
そもそも、労働者の取り分が少なければ、労働者一人ひとりは、十分な賃金を得ることができません。
労働者の賃金が下がっている理由は、経営者の取り分が増えているからかもしれないのです。
日本の労働分配率は、2年連続で下がっています。
会社が稼いだ金額のうち、経営者の取り分が増えているのです。
経営者がお金持ちになる方法
経営者が利潤を増やす方法の一つは、賃金を下げることです。
経営者は、儲けの中から、賃金を支払い、残りは経営者の取り分にしています。
つまり、もし労働者の賃金を減らせば、経営者の取り分が増えるのです。
賃金が低くなることのデメリット
このように賃金を低くすることには、デメリットがあります。
それは、景気が悪くなることです。
労働者の実質賃金が減ると、景気が悪くなります。
その理由は、実質賃金が下がると、買い物する人が減るからです。
賃金が低くなれば、人々は「節約しなければならない」という気持ちになります。
そして、お店のモノが売れなくなります。
お店のモノが売れないなら、お店はモノを作らなくなります。
パンが売れないなら、パンを作りません。
こんな時期は、工場を大きくしようという気分にはなりません。
設備投資が起きないのです。
設備投資とは、オーブンを買ったり、工場を大きくしたりすることです。
景気が悪い時は、オーブンを買ったり、工場を大きくしたりしないのです。
パンが売れる見込みがない時は、工場を大きくしないのです。
このような理由で、日本は長い間、不況の状況にあります。
量的金融緩和政策
こんな状況を打破するために、政府は量的金融緩和政策を行いました。
量的金融緩和政策とは、銀行からお店にお金を与えようとすることです。
お店は、お金が手に入ったら、そのお金を使って、工場を大きくするはずだからです。
量的金融緩和政策で解決できない理由
しかし、日本の景気は良くなりませんでした。
なぜなのでしょうか?
では、先ほどのパン屋さんを見てみます。
パン屋さんが抱えている悩みは、パンが売れないということです
パンが売れないから、パンを作らないのです。
ケインズは、「誰も買わないなら、作っても意味がない」と言いました。
たとえ、お金をもらったとしても、パン屋さんは工場を大きくしません。
なぜなら、パンが売れないことがわかっているからです。
設備投資をするメリットがないので、 量的金融緩和政策を行っても、設備投資が増えないのです。
パン屋さんたちは、お金がなくて、設備投資をしないのではありません。
パンをたくさん作っても、売れないので、生産を拡大しないのです。
この結果、銀行にあるお金は、使われません。
お金は、銀行から出て行かないのです。
銀行に積み上がるだけです。
これを、「ブタ積み」と呼ぶそうです。
政府は、量的金融緩和政策を行いました。
そのおかげで、お店や企業は、銀行からお金を手に入れやすくなりました。
しかし、お店や企業は、お金を借りませんでした。
その理由は、設備投資をする予定がないからです、
しかも、お店や企業には、使わずにとっておいてるお金がたくさんあります。
企業が使わずに持っているお金のことを、内部留保と呼びます。
日本の企業の内部留保は、国家予算の3倍を超えるほどあります。
つまり、たくさんあるということです。
日本の企業は、お金を持っているのに、使わないのです。
労働者の立場から考えると「お金があるなら、賃金を高くしてほしい」と感じます。
しかし、今の日本の企業は「お金はあるけど、設備投資はしないし、実質賃金を下げる」ということをしているのです。
不況の悪化
今の日本は、実質賃金が下がっています。
そのため、お金を節約する人が増えています。
それでは、なぜ人々は、節約をするのでしょうか?
ケインズは、その理由は、「不安になると貯金するからだ」と考えました。
ケインズがここで注目したのが、「貨幣愛」です。
景気が悪くなる理由は、人には貨幣愛があるからです。
将来は不確実です。
明日がどうなるかは、誰にも分かりません。
特に、不況の時は、人々の不安は大きくなります。
不安になると、人は貯金をするのです。
しかし、貯金をする人が増えると、ますます景気が悪くなります。
これを、過少消費説と言います。
過少消費説
過少消費説とは、「お客さんが買い物をしないから、景気が悪くなる」という考え方です。
労働者の賃金が低くなると、労働者は、貯金をするようになります。
つまり、買い物をする人が減るのです。
買い物をする人が減ると、景気が悪くなります。
その理由は、Aさんが貯金をすると、その分、Bさんのお店が儲からなくなるからです。
もし、Aさんが貯金をしていなければ、Bさんのお店で、Aさんは、パンを買っていたかもしれません。
しかし、Aさんが買い物をしなかったせいで、Bさんのお店では、パンが売れなかったのです。
賃金を高くするべきだ
ピケティは、日本の景気が悪い理由は、賃金が低いからだと考えました。
そのため、景気を良くするためには、賃金を高くすることが大切であると考えました。
パン屋さんは、パンが売れなくて困っています。
一方で、お客さんたちは、お金がないということで悩んでいます。
パンを買いたくてもお金がないから買えないのです。
そのため、解決策としては、パンを買うための十分な賃金を労働者に与えればいいのです。
賃金をもっと高くして、貧しい人々にお金を行き渡らせることで、買い物をする人を増やすことができます。
買い物をする人が増えれば、パンが売れるようになります。
そうすれば、パン屋さんはもっとパンを作るようになります。
工場を大きくするかもしれません。
つまり、設備投資が増えます。
こうして、景気を良くすることができるのです。